正文 第32节

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    人たちなのにどうしてみんな世の中のしくみってものがわかんないかしらcあの人たち口でなんてなんとでも言えるのよ。大事なのはウンコをかたづけるかかたづけないかなのよ。私だって傷つくことはあるのよ。私だってヘトヘトになることはあるのよ。私だって泣きたくなることあるのよ。なおる見こみもないのに医者がよってたかって頭切って開いていじくりまわしてcそれを何度もくりかえしcくりかえすたびに悪くなってc頭がだんだんおかしくなっていってcそういうの目の前でずっと見ててごらんなさいよcたまらないわよcそんなの。おまけに貯えはだんだん乏しくなってくるしc私だってあと三年半大学に通えるかどうかもわかんないしcお姉さんだってこんな状態じゃ結婚式だってあげられないし」

    「君は週に何日くらいここに来てるの」と僕は訊いてみた。

    「四日くらいね」と緑は言った。「ここは一応完全看護がたてまえなんだけれど実際には看護婦さんだけじゃまかないきれないのよ。あの人たち本当によくやってくれるわよcでも数は足りないしcやんなきゃいけないことが多すぎるのよ。だからどしても家族がつかざるを得ないのよc

    ある程度。お姉さんは店をみなくちゃいけないしc大学の授業のあいまをぬって私が来なきゃしかたないでしょ。お姉さんがそれでも週に三日来てc私が四日くらい。そしてその寸暇を利用してデートしてるのc私たち。過密なスケジュールよ」

    「そんなに忙しいのにcどうしてよく僕に会うの」

    「あなたと一緒にいるのが好きだからよ」と緑は空のプラスチックの湯のみ茶碗をいじりまわしながら言った。

    「二時間ばかり一人でそのへん散歩してきなよ」と僕は言った。「僕がしばらくお父さんのこと見ててやるから」

    「どうして」

    「少し病院を離れて人でのんびりしてきた方がいいよ。誰とも口きかないで頭の中を空

    っぽにしてさ」

    緑は少し考えていたがcやがて肯いた。「そうね。そうかもしれないわね。でもあなたやり方わかる世話のしかた」

    「見てたからだいたいわかると思うよ。点滴をチェックしてc水を飲ませてc汗を拭いてc痰をとってcしびんはベットの下にあってc腹が減ったら昼食の残りを食べさせる。その他わからないことは看護婦さんに訊く」

    「それだけわかってりゃまあ大丈夫ね」と緑は微笑んで言った。「ただねcあの人今ちょっと頭がおかしくなり始めてるからときどき変なこと言いだすのよ。なんだかよくわけのわからないことを。もしそういうこと言ってもあまり気にしないでね」

    「大丈夫だよ」と僕は言った。

    病室に戻ると緑は父親に向かって自分はあるのでちょっと外出してくるcそのあいだこの人が面倒を見るからと言った。父親はそれについてはとくに感想は持たなかったようだった。あるいは緑の言ったことを全く理解してなかったのかもしれない。彼はあおむけになってcじっと天井を見つめていた。ときどきまばたきしなければc死んでいると言っても通りそうだった。目は酔払ったみたいに赤く血ばしっていてc深く息をすると鼻がかすかに膨らんだ。彼はもうびくりとも動かずc緑が話しかけても返事をしようとはしなかった。彼がその混濁した意識の底で何を想い何を考えているのか。僕には見当もつかなった。

    緑が行ってしまったあとで僕は彼に何か話しかけてみようかとも思ったがc何をどう言えばいいのかわからなかったのでc結局黙っていた。するとそのうちに彼は目を閉じて眠ってしまった。僕は枕もとの椅子に座ってc彼がこのまま死んでしまわないように祈りながらc鼻がときどきぴくぴくと動く様を観察していた。そしてもし僕がつきそっているときにこの男が息引きとってしまったらそれは妙なものだろうなと思った。だって僕はこの男にさっきはじめて会ったばかりだしcこの男と僕を結びつけいるのは緑だけでc緑と僕は「演劇史2」で同じクラスだいうだけの関係にすぎないのだ。

    しかし彼は死にかけてはいなかった。ただぐっすりと眠っているだけだった。耳を顔に近づけると微かな寝息が聞こえた。それで僕は安心して隣りの奥さんと話をした。彼女は僕のことを緑の恋人だと思っているらしくc僕にずっと緑の話をしてくれた。

    「あの子c本当に良い子よ」彼女は言った。「とてもよくお父さんの面倒をみてるしc親切でやさしいしcよく気がつくしcしっかりしてるしcおまけに綺麗だし。あなたc大事にしなきゃ駄目よ。放しちゃだめよ。なかなかあんな子いないんだから」

    「大事にします」と僕は適当に答えておいた。

    「うちは二十一の娘と十七の息子がいるけど。病院になんて来やしないわよ。休みになるとサーフィンだcデートだcなんだかんだってどこかに遊びに行っちゃってね。ひどいもんよねえ。おこづかいしぼれるだけしぼりっとてcあとはポイだもん」

    一時半になると奥さんはちょっと買物してくるからと言って病室を出て行った。病人は二人ともぐっそり眠っていた。午後の穏やかな日差しが部屋の中にたっぷりと入りこんでいてc僕も丸椅子の上で思わず眠り込んでしまいそうだった。窓辺のテーブルの上には白と黄色の菊の花が花瓶にいけられていてc今は秋なのだと人々に教えていた。病室には手つかずで残された昼食の煮魚の甘い匂いが漂っていた。看護婦たちはあいかわらずコツコツという音を立てて廊下を歩きまわりcはっきりとしたよく通る声で会話をかわしていた。彼女たちはときどき病室にやってきてc患者が二人ともぐっすり眠っているのを見るとc僕に向かってにっこり微笑んでから姿を消した。何か読むものがあればと思ったがc病室には本も雑誌も新聞も何にもなかった。カレンダーが壁にかかっているだけだった。

    僕は直子のことを考えた。髪どめしかつけていない直子ののことを考えた。腰のくびれと陰毛のかげりのことを考えた。どうして彼女は僕の前で裸になったりしたのだろうあのとき直子は夢遊状態にあったのだろうかそれともあれは僕の幻想にすぎなかったのだろうか時間が過ぎcあの小さな世界から遠く離れれば離れるほどcその夜の出来事が本当にあったことなのかどうか僕にはだんだんわからなくなってきていた。本当にあったことなんだと思えばたしかにそうだという気がしたしc幻想なんだと思えば幻想であるような気がした。幻想であるにしてはあまりにも細部がくっきりとしていたしc本当の出来事にしては全てが美しすぎた。あの直子の体も月の光も。

    緑の父親が突然目を覚まして咳をはじめたのでc僕の思考はそこで中断した。僕ティッシュペーパーで痰を取ってやりcタオルで額の汗を拭いた。

    「水を飲みますか」と僕が訊くとc彼は四ミリくらい肯いた。小さなガラスの水さしで少しずつゆっくり飲ませるとc乾いた唇が震えc喉がびくびくと動いた。彼は水さしの中のなまぬるそうな水を全部飲んだ。

    「もっと飲みますか」と僕は訊いた。彼は何か言おうとしているようなのでc僕は耳を寄せてみた。cもういいcと彼は乾いた小さな声で言った。その声はさっきよりもっと乾いてcもっと小さくなっていた。

    「何か食べませんか腹減ったでしょうう」と僕は訊いた。父親はまた小さく肯いた。僕は緑がやっていたようにハンドルをまわしてベットを起こしc野菜のゼリーと煮魚をスプーンでかわりばんこにひと口ずつすくって食べさせた。すごく長い時間をかけてその半分ほどを食べてからcもういいという風に彼は首を小さく横に振った。頭を大きく動かすと痛みがあるらしくcほんのちょっとしか動かさなかった。フルーツはどうするかと訊くと彼はcいらないcと言った。僕はタオルで口もとを拭きcベットを水平に戻しc食器を廊下に出しておいた。

    「うまかったですか」と僕は訊いてみた。

    cまずいcと彼は言った。

    「うんcたしかにあまりうまそうな代物ではないですね」と僕は笑って言った。父親は何も言わずにc閉じようか開けようか迷っているような目でじっと僕を見ていた。この男は僕が誰だかわかっているのかなと僕はふと思った。彼はなんとなく緑といるときより僕と二人になっているときの方がリラックスしているように見えたからだ。あるいは僕のことを他の誰かと間違えているのかもしれなかった。もしそうだとすれば僕にとってはその方が有難かった。

    「外は良い天気ですよcすごく」と僕は丸椅子に座って脚を組んで言った。「秋でc日曜日でcお天気でcどこに行っても人でいっばいですよ。そういう日にこんな風に部屋の中でのんびりしているのがいちばんですねc疲れないですむし。混んだところ行ったって疲れるだけだしc空気もわるいし。僕は日曜日だいたい洗濯するんです。朝に洗ってc寮の屋上に干してc夕方前にとりこんでせっせとアイロンをかけます。アイロンかけるの嫌いじゃないですねc僕は。くしゃくしゃのものがまっすぐになるのってcなかなかいいもんですよcあれ。僕アイロンがけcわりに上手いんです。最初のうちはもちろん上手くいかなかったですよcなかなか。ほらc筋だらけになっちゃったりしてね。でも一か月やってりゃ馴れちゃいました。そんなわけで日曜日は洗濯とアイロンがけの日なんです。今日はできませんでしたけどねc残念ですねcこんな絶好の洗濯日和なのにね。

    でも大丈夫ですよ。朝早く起きて明日やりますから。べつに気にしなくっていいです。日曜日ったって他にやること何もないんですから。

    明日の朝洗濯して干してからc十時の講義に出ます。この講義はミドリさんと一緒なんです。演劇史2でc今はエウリビデスをやっています。エウリビデス知ってますか昔のギリシャ人でcアイスキュロスcソフォクレスならんでギリシャ悲劇のビッグスリーと言われています。最後はマケドニアで犬に食われて死んだということになっていますがcこれには異説もあります。これがエウリビデスです。僕はソフォクレスの方が好きですけどねcまあこれは好みの問題でしょうね。だからなんとも言えないです。

    彼の芝居の特徴はいろんな物事がぐしゃぐしゃに混乱して身働きがとれなくなってしまうことなんです。わかりますかいろんな人が出てきてcそのそれぞれにそれぞれの事情と理由と言いぶんがあってc誰もがそれなりの正義と幸福を追求しているわけです。そしてそのおかげで全員がにっちもさっちもいかなくなっちゃうんです。そりゃそうですよね。みんなの正義がとおってcみんなの幸福が達成されるということは原理的にありえないですからねcだからどうしようもないカオスがやってくるわけです。それでどうなると思いますこれがまた実に簡単な話でc最後に神様が出てくるんです。そして交通整理するんです。お前あっち行けcお前こっち来いcお前あれと一緒になれcお前そこでしばらくじっとしてろっていう風に。フィクサーみたいなもんですね。そして全てはぴたっと解決します。これはデウスエクスマキナと呼ばれています。エウリビデスの芝居にはしょっちゅうこのデウスエクスマキナが出てきてcそのあたりでエウリビデスの評価がわかれるわけです。

    しかし現実の世界にこういうデウウエクスマキナというのがあったとしたらcこれは楽でしょうね。困ったなc身動きとれないなと思ったら神様が上からするすると降りてきて全部処理してくれるわけですからね。こんな楽なことはない。でもまあとにかくこれが演劇史2です。我々はまあだいたい大学でこういうことを勉強してます」

    僕がしゃべっているあいだ緑の父親は何も言わずにぼんやりとした目で僕を見ていた。僕のしゃべっていることを彼がいささかなりとも理解しているのかどうかその目から判断できなかった。

    「ピース」と僕は言った。

    それだけしゃべってしまうとcひどく腹が減ってきた。朝食を殆んど食べなかった上にc昼の定食も半分残してしまったからだ。僕は昼をきちんと食べておかなかったことをひどく後悔したがc後悔してどうなるどういうものでもなかった。何か食べものがないかと物入れの中を探してみたがc海苔の缶とヴィックスドロップと醤油があるだけだった。紙袋の中にキウリとグレープフルーツがあった。

    「腹が減ったんでキウリ食べちゃいますけどかまいませんかね」と僕は訊ねた。

    緑の父親は何も言わなかった。僕は洗面所で三本のキウリを洗った。そして皿に醤油を少し入れcキウリに海苔を巻きc醤油をつけてぽりぽりと食べた。

    「うまいですよ」と僕は言った。「シンプルでc新鮮でc生命の香りがします。いいキウリですね。キウイなんかよりずっとまともな食いものです」

    僕は一本食べてしまうと次の一本にとりかかった。ぽりぽりというとても気持の良い音が病室に響きわたった。キウリを丸ごとと二本食べてしまうと僕はやっと一息ついた。そして廊下にあるガスコンロで湯をかわしcお茶を入れて飲んだ。

    「水かジュース飲みますか」と僕は訊いてみた。

    cキウリcと彼は言った。

    僕はにっこり笑った。「いいですよ。海苔つけますか」

    彼は小さく肯いた。僕はまたベットを起こしc果物ナイフで食べやすい大きさに切ったキウリに海苔を巻きc醤油をつけc楊子に刺して口に運んでやった。彼は殆んど表情を変えずにそれを何度も何度も噛みcそして呑みこんだ。

    cうまいcと彼は言った。

    「食べものがうまいっていいもんです。生きている証しのようなもんです」

    結局彼はキウリを一本食べてしまった。キウリを食べてしまうと水を飲みたがったのでc僕はまた水さしで飲ませてやった。水を飲んで少しすると小便したいと言ったのでc僕はベットの下からしびんを出しcその口をベニスの先にあててやった。僕は便所に行って小便を捨てcしびんを水で洗った。そして病室に戻ってお茶の残りを飲んだ。

    「気分どうですか」と僕は訊いてみた。

    cすこしcと彼は言った。cアタマc

    「頭が少し痛むんですか」

    そうだcというように彼は少し顔をしかめた。

    「まあ手術のあとだから仕方ありませんよね。僕は手術なんてしたことないからどういうもんだかよくわからないけれど」

    cキップcと彼は言った。

    「切符なんの切符ですか」

    cミドリcと彼は言った。cキップc

    何のことかよくわからなかったので僕は黙っていた。彼もしばらく黙っていた。それからcタノムcと言った。「頼む」ということらしかった。彼しっかりと目を開けてじっと僕の顔を見ていた。彼は僕に何かを伝えたがっているようだったがcその内容は僕には見当もつかなかった。

    cウエノcと彼は言った。cミドリc

    「上野駅ですか」

    彼は小さく肯いた。

    「切符緑頼む上野駅」と僕はまとめてみた。でも意味はさっぱりわからなかった。たぶん意識が混濁しているのだろうと僕は思ったがc目つきがさっきに比べていやにしっかりしていた。彼は点滴の針がささっていない方の手を上げて僕の方にのばした。そうするにはかなりの力が必要であるらしくc手は空中でぴくぴくと震えていた。僕は立ちあがってそのくしゃくしゃとした手を握った。彼は弱々しく僕の手を握りかえしタノムcとくりかえした。

    切符のことも緑さんもちゃんとしますから大丈夫ですc心配しなくてもいいですよcと僕が言うと彼は手を下におろしcぐったりと目を閉じた。そして寝息を立てて眠った。僕は彼が死んでいないことをたしかめてから外に出て湯をわかしcまたお茶を飲んだ。そして自分がこの死にかけている小

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