正文 第4节

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    んだよ」

    「どうしてこんなところに来たの」

    「君が来たんだよ。僕はあとをついてきただけ」

    我々は駅の近くのそば屋に入って軽い食事をした。喉が乾いたので僕は一人でビールを飲んだ。注文してから食べ終るまで我々は一言もロをきかなかった。僕は歩き疲れていささかぐったりとしていたしc彼女はテーブルの上に両手を置いてまた何かを考えこんでいた。tvのニュースが今日の日曜日は行楽地はどこもいっぱいでしたと告げていた。そして我々は四ツ谷から駒込まで歩きましたcと僕は思った。

    「ずいぶん体が丈夫なんだね」と僕はそばを食べ終ったあとで言った。

    「びっくりした」

    「うん」

    「これでも中学校の頃には長距離の選手で十キロとか十五キロとか走ってたのよ。それに父親が山登りが好きだったせいでc小さい頃から日曜日になると山登りしてたの。ほらc家の裏がもう山でしょだから自然に足腰が丈夫になっちゃったの」

    「そうは見えないけどね」と僕は言った。

    「そうなの。みんな私のことをすごく華奢な女の子だと思うのね。でも人は見かけによらないのよ」彼女はそう言ってから付けたすように少しだけ笑った。

    「申しわけないけれど僕の方はかなりくたくただよ」

    「ごめんなさいね日つきあわせちゃって」

    「でも君と話ができてよかったよ。だって二人で話をしたことなんて一度もなかったものな」と僕は言ったがc何を話したのか思いだそうとしてもさっぱり思いだせなかった。

    彼女はテーブルの上の灰皿をとくに意味もなくいじりまわしていた。

    「ねえcもしよかったら――もしあなたにとって迷惑じゃなかったらということなんだけど――私たちまた会えるかしらもちろんこんなこと言える筋合じゃないことはよくわかっているんだけど」

    「筋合」と僕はびっくりして言った。「筋合じゃないってどういうこと」

    彼女は赤くなった。たぷん僕は少しびっくりしすぎたのだろう。

    「うまく説明できないのよ」と直子は弁解するように言った。彼女はトレーナーシャツの両方の袖を肘の上までひっぱりあげcそれからまたもとに戻した。電灯がうぶ毛をきれいな黄金色に染めた。「筋合なんて言うつもりはなかったの。もっと違った風に言うつもりだったの」

    直子はテーブルに肘をついてcしばらく壁にかかったカレンダーを見ていた。そこに何か適当な表現を見つけることができるんじゃないかと期待して見ているようにも見えた。でももちろんそんなものは見つからなかった。彼女はため息をついて目を閉じc髪どめをいじった。

    「かまわないよ」と僕は言った。「君の言おうとしてることはなんとなくわかるから。僕にもどう言えばいいのかわからないけどさ」

    「うまくしゃべることができないの」と直子は言った。「ここのところずっとそういうのがつづいてるのよ。何か言おうとしてもcいつも見当ちがいな言葉しか浮かんでこないの。見当ちがいだったりcあるいは全く逆だったりね。それでそれを訂正しようとするとcもっと余計に混乱して見当ちがいになっちゃうしcそうすると最初に自分が何を言おうとしていたのかがわからなくなっちゃうの。まるで自分の体がふたつに分かれていてねc追いかけっこをしてるみたいなそんな感じなの。まん中にすごく太い柱が建っていてねcそこのまわりをぐるぐるとまわりながら追いかけっこしているのよ。ちゃんとした言葉っていうのはいつももう一人の私が抱えていてcこっちの私は絶対にそれに追いつけないの」

    直子は顔を上げて僕の目を見つめた。

    「そういうのってわかる」

    「多かれ少なかれそういう感じって誰にでもあるものだよ」と僕は言った。「みんな自分を表現しようとしてcでも正確に表現できなくてそれでイライラするんだ」

    僕がそう言うとc直子は少しがっかりしたみたいだった。

    「それとはまた違うの」と直子は言ったがcそれ以上は何も説明しなかった。

    「会うのは全然かまわないよ」と僕は言った。「どうせ日曜日ならいつも暇でごろごろしているしc歩くのは健康にいいしね」

    我々は山手線に乗りc直子は新宿で中央線に乗りかえた。彼女は国分寺に小さなアパートを借りて暮していたのだ。

    「ねえc私のしゃべり方って昔と少し変った」と別れ際に直子が訊いた。

    「少し変ったような気がするね」と僕は言った。「でも何がどう変ったのかはよくわからないな。正直言ってcあの頃はよく顔をあわせていたわりにあまり話をしたという記憶がないから」

    「そうね」と彼女もそれを認めた。「今度の土曜日に電話かけていいかしら」

    「いいよcもちろん。待っているよ」と僕は言った。

    *

    はじめて直子に会ったのは高校二年生の春だった。彼女もやはり二年生でcミッション系の品の良い女子校に通つていた。あまり熱心に勉強をすると「品がない」とうしろ指をさされるくらい品の良い学校だった。僕にはキズキという仲の良い友人がいて仲が良いというよりは僕の文字どおり唯一の友人だったc直子は彼の恋人だった。キズキと彼女とは殆んど生まれ落ちた時からの幼ななじみでc家も二百メートルとは離れていなかった。

    多くの幼ななじみのカップルがそうであるようにc彼らの閥係は非常にオーブンだったしc二人きりでいたいというような願望はそれほどは強くはないようだった。二人はしょっちゅうお互いの家を訪問しては夕食を相手の家族と一緒に食べたりc麻雀をやったりしていた。僕とダブルデートしたことも何回かある。直子がクラスメートの女の子をつれてきてc四人で動物園に行ったりcプールに泳ぎに行ったりc映画を観に行ったりした。でも正直なところ直子のつれてくる女の子たちは可愛くはあったけれどc僕には少々上品すぎた。僕としては多少がさつではあるけれど気楽に話ができる公立高校のクラスメートの女の子たちの方が性にあっていた。直子のつれてくる女の子たちがその可愛いらしい頭の中でいったい何を考えているのかc僕にはさっぱり理解できなかった。たぶん彼女たちにも僕のことは理解できなかったんじゃないかと思う。

    そんなわけでキズキは僕をダブルデートに誘うことをあきらめc我々三人だけでどこかに出かけたり話をしたりするようになった。キズキと直子と僕の三人だった。考えてみれば変な話だがc結果的にはそれがいちばん気楽だったしcうまくいった。四人目が入ると雰囲気がいくぶんぎくしゃくした。三人でいるとcそれはまるで僕がゲストでありcキズキが有能なホストでありc直子がアシスタントであるtvのトーク番組みたいだった。いつもキズキが一座の中心にいたしc彼はそういうのが上手かった。キズキにはたしかに冷笑的な傾向があって他人からは傲慢だと思われることも多かったがc本質的には親切で公平な男だった。三人でいると彼は直子に対しても僕に対しても同じように公平に話しかけc冗談を言いc誰かがつまらない思いをしないようにと気を配っていた。どちらかが長く黙っているとそちらにしゃべりかけて相手の話を上手くひきだした。そういうのを見ていると大変だろうなと思ったものだがc実際はたぶんそれほどたいしたことではなかったのだろう。彼には場の空気をその瞬間瞬間で見きわめてそれにうまく対応していける能力があった。またそれに加えてcたいして面白くもない相手の話から面白い部分をいくつもみつけていくことができるというちょっと得がたい才能を持っていた。だから彼と話をしているとc僕は自分がとても面白い人間でとても面白い人生を送っているような気になったものだった。

    もっとも彼は決して社交的な人間ではなかった。彼は学校では僕以外の誰とも仲良くはならなかった。あれほど頭が切れて座談の才のある男がどうしてその能力をもっと広い世界に向けず我々三人だけの小世界に集中させることで満足していたのか僕には理解できなかった。そしてどうして彼が僕を選んで友だちにしたのかcその理由もわからなかった。僕は一人で本を読んだり音楽を聴いたりするのが好きなどちらかというと平凡な目立たない人間でcキズキがわざわざ注目して話しかけてくるような他人に抜きんでた何かを持っているわけではなかったからだ。それでも我々はすぐに気があって仲良くなった。彼の父親は歯科医でc腕の良さと料金の高さで知られていた。

    「今度の日曜日cダブルデートしないか俺の彼女が女子校なんだけどc可愛い女の子つれてくるからさ」と知りあってすぐにキズキが言った。いいよcと僕は言った。そのようにして僕と直子は出会ったのだ。

    僕とキズキと直子はそんな風に何度も一緒に時を過したものだがcそれでもキズキが一度席を外して二人きりになってしまうとc僕と直子はうまく話をすることができなかった。二人ともいったい何について話せばいいのかわからなかったのだ。実際c僕と直子のあいだには共通する話題なんて何ひとつとしてなかった。だから仕方なく我々は殆んど何もしゃべらずに水を飲んだりテーブルの上のものをいじりまわしたりしていた。そしてキズキが戻ってくるのを待った。キズキが戻ってくるとcまた話が始まった。直子もあまりしゃべる方ではなかったしc僕もどちらかといえば自分が話すよりは相手の話を聞くのが好きというタイプだったからc彼女と二人きりになると僕としてはいささか居心地が悪かった。相性がわるいとかそういうのではなくcただ単に話すことがないのだ。

    キズキの葬式の二週間ばかりあとでc僕と直子は一度だけ顔をあわせた。ちょっとした用事があって喫茶店で待ちあわせたのだがc用件が済んでしまうとあとはもう何も話すことはなかった。僕はいくつか話題をみつけて彼女に話しかけてみたがc話はいつも途中で途切れてしまった。それに加えて彼女のしゃべり方にはどことなく角があった。直子は僕に対してなんとなく腹を立てているように見えたがcその理由は僕にはよくわからなかった。そして僕と直子は別れ年後に中央線の電車でばったりと出会うまで一度も顔を合わせなかった。

    あるいは直子が僕に対して腹を立てていたのはcキズキと最後に会って話をしたのが彼女ではなく僕だったからかもしれない。こういう言い方は良くないとは思うけれどc彼女の気持はわかるような気がする。僕としてもできることならかわってあげたかったと思う。しかし結局のところそれはもう起ってしまったことなのだしcどう思ったところで仕方ない種類のことなのだ。

    その五月の気持の良い昼下がりにc昼食が済むとキズキは僕に午後の授業はすっぽかして玉でも撞きにいかないかと言った。僕もとくに午後の授業に興味があるわけではなかったので学校を出てぶらぶらと坂を下って港の方まで行きcビリヤード屋に入って四ゲームほど玉を撞いた。最初のゲームを軽く僕がとると彼は急に真剣になって残りの三ゲームを全部勝ってしまった。約束どおり僕がゲーム代を払った。ゲームのあいだ彼は冗談ひとつ言わなかった。これはとても珍しいことだった。ゲームが終ると我々は一服して煙草を吸った。

    「今日は珍しく真剣だったじゃないか」と僕は訊いてみた。

    「今日は負けたくなかったんだよ」とキズキは満足そうに笑いながら言つた。

    彼はその夜c自宅のガレージの中で死んだ。n360の排気パイプにゴムホースをつないでc窓のすきまをガムテープで目ばりしてからエンジンをふかせたのだ。死ぬまでにどれくらいの時間がかかったのかc僕にはわからない。親戚の病気見舞にでかけていた両親が帰宅してガレージに車を入れようとして扉を開けたときc彼はもう死んでいた。カーラジオがつけっぱなしになってcワイパーにはガソリンスタンドの領収書がはさんであった。

    遺書もなければ思いあたる動機もなかった。彼に最後に会って話をしたという理由で僕は警察に呼ばれて事情聴取された。そんなそぶりはまったくありませんでしたcいつもとまったく同じでしたcと僕は取調べの警官に言った。警官は僕に対してもキズキに対してもあまり良い印象は持たなかったようだった。高校の授業を抜けて玉撞きに行くような人間なら自殺したってそれほどの不思議はないと彼は思っているようだった。新聞に小さく記事が載ってcそれで事件は終った。赤いn360は処分された。教室の彼の机の上にはしばらくのあいだ白い花が飾られていた。

    キズキが死んでから高校を卒業するまでの十ヵ月ほどのあいだc僕はまわりの世界の中に自分の位置をはっきりと定めることができなかった。僕はある女の子と仲良くなって彼女と寝たがc結局半年ももたなかった。彼女は僕に対して何ひとつとして訴えかけてこなかったのだ。僕はたいして勉強をしなくても入れそうな東京の私立大学を選んで受験しcとくに何の感興もなく入学した。その女の子は僕に東京に行かないでくれと言ったがc僕はどうしても神戸の街を離れたかった。そして誰も知っている人間がいないところで新しい生活を始めたかったのだ。

    「あなたは私ともう寝ちゃつたからc私のことなんかどうでもよくなっちゃったんでしょ」と彼女は言って泣いた。

    「そうじゃないよ」と僕は言った。僕はただその町を離れたかっただけなのだ。でも彼女は理解しなかった。そして我々は別れた。東京に向う新幹線の中で僕は彼女の良い部分や優れた部分を思いだしc自分がとてもひどいことをしてしまったんだと思って後悔したがcとりかえしはつかなかった。そして僕は彼女のことを忘れることにした。

    東京について寮に入り新しい生活を始めたときc僕のやるべきことはひとつしかなかった。あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすることcあらゆる物事と自分のあいだにしかるべき距離を置くこと――それだけだった。僕は緑のフェルトを貼ったビリヤード台やc赤いn360や机の上の白い花やcそんなものをみんなきれいさっぱり忘れてしまうことにした。火葬場の高い煙突から立ちのぼる煙やc警察の取調べ室に置いてあったずんぐりした形の文鎮やcそんな何もかもをだ。はじめのうちはそれでうまく行きそうに見えた。しかしどれだけ忘れてしまおうとしてもc僕の中には何かぼんやりとした空気のかたまりのようなものが残った。そして時が経つにつれてそのかたまりははっきりとした単純なかたちをとりはじめた。僕はそのかたちを言葉に置きかえることができる。それはこういうことだった。

    死は生の対極としてではなくcその一部として存在している。

    言葉にしてしまうと平凡だがcそのときの僕はそれを言葉としてではなくcひとつの空気のかたまりとして身のうちに感じたのだ。文鎮の中にもcビリヤード台の上に並んだ赤と白の四個のボールの中にも死は存在していた。そして我々はそれをまるで細かいちりみたいに肺の中に吸いこみながら生きているのだ。

    そのときまで僕は死というものを完全に生から分離した的な存在として捉えていた。つまり<死はいつか確実に我々をその手に捉える。しかし逆に言えば死が我々を捉えるその日までc我々は死に捉えられることはないのだ>と。それは僕には至極まともで論理的な考え方であるように思えた。生はこちら側にありc死は向う側にある。僕はこちら側にいてc向う側にはいない。

    しかしキズキの死んだ夜を境にしてc僕にはもうそんな風に単純に死をそして生を捉えることはできなくなってしまった。死は生の対極存在なんかではない。死は僕という存在の中に本来的に既に含まれているのだしcその事実はどれだけ

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