正文 第41节

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    と言った。家も土地も昔からのももだしc子供もみんなしてしまったしc何をせずとものんびりと老後を送れるのだと言った。だからしょっちょう夫婦二人で旅行をするのだcと。

    「いいですね」と僕は言った。

    「よかないよ」と彼は言った。「旅行なんてちっとも面白くないね。仕事してる方がずっと良い」

    庭をいじらないで放ったらかしておいたのはこのへんの植木屋にろくなのがいないからでc本当は自分が少しずつやればいいのだが最近鼻のアレルギーが強くなって草をいじることができないのだということだった。そうですかcと僕は言った。お茶を飲み終ると彼は僕に納屋を見せてcお礼というほどのこともできないがcこの中にあるのは全部不用品みたいなものだから使いたいものがあったらなんでも使いなさいと言ってくれた。納屋の中には実にいろんなものがつまっていた。風呂桶から子供用プールから野球のバッドまであった。僕は古い自転車とそれほど大きくない食卓と椅子を二脚と鏡とギターをみつけてcもしよかったらこれだけお借りしたいと言った。好きなだけ使っていいよと彼は言った。

    僕は一日がかりで自転車の錆をおとしc油をさしcタイヤに空気を入れcギヤを調整しc自転車屋でクラッチワイヤを新しいものにとりかえてもらった。それで自転車は見ちがえるくらい綺麗になった。食卓はすっかりほこりを落としてからニスを塗りなおした。ギターの弦も全部新しいものに替えc板のはがれそうになっていたところは接着剤でとめた。錆もワイヤブラシできれいに落としcねじも調節した。たいしたギターではなかったけれど応正確な音は出るようになった。考えて見ればギターを手にしたのなんて高校以来だった。僕は縁側に座ってc昔練習したドリフターズのアップオンザルーフを思い出しながらゆっくりと弾いてみた。不思議にまだちゃんと大体のコードを覚えていた。

    それから僕は余った材木で郵便受けを作りc赤いペンキを塗り名前を書いて戸の前に立てておいた。しかし四月三日までそこに入っていた郵便物といえば転送されてきた高校のクラス会の通知だけだったしc僕はたとえ何があろうとそんなものにだけは出たくなかった。何故ならそれは僕とキズキのいたクラスだったからだ。僕はそれをすぐに屑かごに放り込んだ。

    四月四日の午後に一通の手紙が郵便受けに入っていたがcそれはレイコさんからのものだった。封筒の裏に石田玲子という名前が書いてあった。僕ははさみできれいに封を切りc縁側に座ってそれを読んだ。最初からあまり良い内容のものではないだろうという予感はあったがc読んでみると果たしてそのとおりだった。

    はじめにレイコさんは手紙の返事が大変遅くなったことを謝っていた。直子はあなたに返事を書こうとずっと悪戦苦闘していたのだがcどうしても書きあげることができなかった。私は何度もかわりに書いてあげようc返事が遅くなるのはいけないからと言ったのだがc直子はこれはとても個人的なことだしどうしても自分が書くのだと言いつづけていてcそれでこんなに遅くなってしまったのだ。いろいろ迷惑をかけたかもしれないが許してほしいcと彼女は書いていた。

    「あなたもこの一ヶ月手紙の返事を待ちつづけて苦しかったかもしれませんがc直子にとってもこの一ヶ月はずいぶん苦しい一ヶ月だったのです。それはわかってあげて下さい。正直に言って今の彼女の状況はあまり好ましいものではありません。彼女はなんとか自分の力で立ち直ろうとしたのですがc今のところまだ良い結果は出ていません。

    考えて見れば最初の徴候はうまく手紙が書けなくなってきたことでした。十一月のおわりかc十二月の始めころからです。それから幻聴が少しずつ始まりました。彼女が手紙を書こうとするとcいろんな人が話しかけてきて手紙を書くのを邪魔するのです。彼女が言葉を選ぼうとすると邪魔をするわけです。しかしあなたの二回目の訪問まではcこういう症状も比較的軽度のものだったしc私も正直言ってそれほど深刻には考えていませんでした。私たちにはある程度そういう症状の周期のようなものがあるのです。でもあなたが帰ったあとでcその症状はかなり深刻なものになってしまいました。彼女は今c日常会話するのにもかなりの困難を覚えています。言葉が選べないのです。それで直子は今ひどく混乱しています。混乱してc怯えています。幻聴もだんだんひどくなっています。

    私たちは毎日専門医をまじえてセッションをしています。直子と私と医師の三人でいろんな話をしながらc彼女の中の損われた部分を正確に探りあてようとしているわけです。私はできることならあなたを加えたセッションを行いたいと提案しc医者もそれには賛成したのですがc直子が反対しました。彼女の表現をそのまま伝えると会うときは綺麗な体で彼に会いたいからというのがその理由です。問題はそんなことではなく一刻も早く回復することなのだと私はずいぶん説得したのですがc彼女の考えは変りませんでした。

    前にもあなたに説明したと思いますがここは専門的な病院ではありません。もちろんちゃんとした専門医はいて有効な治療を行いますがc集中的な治療をすることは困難です。ここの施設の目的は患者が自己治療できるための有効な環境を作ることであってc医学的治療は正確にはそこには含まれていないのです。だからもし直子の病状がこれ以上悪化するようであればc別の病院なり医療施設に移さざるを得ないということになるでしょう。私としても辛いことですがcそうせざるをえないのです。もちろんそうなったとしても治療のための一時的な出張ということでcまたここに戻ってくることは可能です。あるいはうまくいけばそのまま完治して退院ということになるかもしれませんね。いずれにせよ私たちも全力を尽くしていますしc直子も全力を尽くしています。あなたも彼女の回復を祈っていて下さい。そしてこれまでどおり手紙を書いてやって下さい。

    三月三十一日

    石田玲子      」

    手紙を読んでしまうと僕はそのまま縁側に座ってcすっかり春らしくなった庭を眺めた。庭には古い桜の木があってcその花は殆んど満開に近いところまで咲いていた。風はやわらかくc光はぼんやりと不思議な色あいにかすんでいた。少しすると「かもめ」がどこからやってきて縁側の板をしばらくかりかりとひっかいてからc僕の隣りで気持良さそうに体をのばして眠ってしまった。

    何かを考えなくてはと思うのだけれどc何をどう考えていけばいいのかわからなかった。それに正直なところ何も考えたくなかった。そのうちに何かを考えざるをえない時がやってくるだろうしcそのときにゆっくり考えようと僕は思った。少なくとも今は何も考えたくはない。

    僕は縁側で「かもめ」を撫でながら柱にもたれて一日庭を眺めていた。まるで体中の力が抜けてしまったような気がした。午後が深まりc薄暮がやってきてcやがてほんのりと青い夜の闇が庭を包んだ。「かもめ」はもうどこかに姿を消したしまっていたがc僕はまだ桜の花を眺めていた。春の闇の中の桜の花はcまるで皮膚を裂いてはじけ出てきた爛れた肉のように僕には見えた。庭はそんな多くの肉の甘く重い腐臭に充ちていた。そして僕は直子のを思った。直子の美しいは闇の中に横たわりcその肌からは無数の植物の芽が吹き出しcその緑色の小さな芽はそこから吹いてくる風に小さく震えて揺れていた。どうしてこんなに美しい体が病まなくてはならないのかcと僕は思った。何故彼らは直子をそっとしておいてくれないのだ

    僕は部屋に入って窓のカーテンを閉めたがc部屋の中にもやはりその春の香りは充ちていた。春の香りはあらゆる地表に充ちているのだ。しかし今cそれが僕に連想させるのは腐臭だけだった。僕はカーテンを閉めきった部屋の中で春を激しく憎んだ。僕は春が僕にもたらしたものを憎みcそれが僕の体の奥にひきおこす鈍い疼きのようなものを憎んだ。生まれてこのかたcこれほどまで強く何かを憎んだのははじめてだった。

    それから三日間c僕はまるで海の底を歩いているような奇妙な日々を送った。誰かが僕に話しかけても僕にはうまく聞こえなかったしc僕が誰かに何かを話しかけてもc彼はそれを聞きとれなかった。まるで自分の体のまわりにぴったりとした膜が張ってしまったような感じだった。その膜のせいでc僕はうまく外界と接触することができないのだ。しかしそれと同時に彼らもまた僕の肌に手を触れることはできないのだ。僕自身は無力だがcこういう風にしてる限りc彼らもまた僕に対しては無力なのだ。

    僕は壁にもたれてぼんやりと天井を眺めc腹が減るとそのへんにあるものをかじりc水を飲みc哀しくなるとウィスキーを飲んで眠った。風呂にも入らずc髭も剃らなかった。そんな風にして三日が過ぎた。

    四月六日に緑から手紙が来た。四月十日に課目登録があるからcその日に大学の中庭で待ち合わせて一緒にお昼ごはんを食べないかと彼女は書いていた。返事はうんと遅らせてやったけれどcこれでおあいこだから仲直りしましょう。だってあなたに会えないのはやはり淋しいものcと緑の手紙には書いてあった。僕はその手紙を四回読みかえしてみたがc彼女の言わんとすることはよく理解できなかった。この手紙は何を意味しているのだcいったい僕の頭はひどく漠然としていてcひとつの文章と次の文章のつながりの接点をうまく見つけることができなかった。どうして「課目登録」の日に彼女と会うことが「おあいこ」なのだ何故彼女は僕と「お昼ごはん」を食べようとしているのだなんだか僕の頭までおかしくなるつつあるみたいだなcと僕は思った。意識がひどく弛緩してc暗黒植物の根のようにふやけていた。こんな風にしてちゃいけないなcと僕はぼんやりとした頭で思った。いつまでもこんなことしてちゃいけないcなんとかしなきゃ。そして僕は「自分に同情するな」という永沢さんの言葉を突然思いだした。「自分に同情するのは下劣な人間のやることだ」

    やれやれ永沢さんcあなたは立派ですよcと僕は思った。そしてため息をついて立ち上がった。

    僕は久しぶりに洗濯をしc風呂屋に行って髭を剃りc部屋の掃除をしc買物をしてきちんとした食事を作って食べc腹を減らせた「かもめ」に餌をやりcビール以外の酒を飲まずc体操を三十分やった。髭を剃るときに鏡を見るとc顔がげっそりとやせてしまったことがわかった。目がいやにぎょろぎょろとしていてcなんだか他人の顔みたいだった。

    翌朝僕は自転車に乗って少し遠出をしc家に戻って昼食を食べてからcレイコさんの手紙をもう一度読みかえしてみた。そしてこれから先どういう風にやっていけばいいのかを腰を据えて考えて見た。レイコさんの手紙を読んで僕が大きなショックを受けた最大の理由はc直子は快方に向いつつあるという僕の楽観的観測が一瞬にしてひっくり返されてしまったことにあった。直子自身c自分の病いは根が深いのだと言ったしcレイコさんも何か起るかはわからないわよといった。しかしそれでも僕は二度直子に会ってc彼女はよくなりつつあるという印象を受けたしc唯一の問題は現実の社会に復帰する勇気を彼女がとり戻すことだという風に思っていたのだ。そして彼女さえその勇気をとり戻せばc我々は二人で力をあわせてきっとうまくやっていけるだろうと。

    しかし僕が脆弱な仮説の上に築きあげた幻想の城はレイコさんの手紙によってあっという間に崩れおちてしまった。そしてそのあとには無感覚なのっぺりとした平面が残っているだけだった。僕はなんとか体勢を立てなおさねばならなかった。直子がもう一度回復するには長い時間がかかるだろうと僕は思った。そしてたとえ回復したにせよc回復したときの彼女は以前よりもっと衰弱しcもっと自信を失くしているだろう。僕はそういう新しい状況に自分を適応させねばならないのだ。もちろん僕が強くなったところで問題の全てが解決するわけではないということはよくわかっていたがcいずれにせよ僕にできることと言えば自分の士気を高めることくらいしかないのだ。そして彼女の回復をじっと待ちつづけるしかない。

    おいキズキcと僕は思った。お前とちがって俺は生きると決めたしcそれも俺なりにきちんと生きると決めたんだ。お前だってきっと辛かっただろうけどc俺だって辛いんだ。本当だよ。これというのもお前が直子を残して死んじゃったせいなんだぜ。でも俺は彼女を絶対に見捨てないよ。何故なら俺は彼女が好きだしc彼女よりは俺の方が強いからだ。そして俺は今よりももっと強くなる。そして成熟する。大人になるんだよ。そうしなくてはならないからだ。俺はこれまでできることなら十七や十八のままでいたいと思っていた。でも今はそうは思わない。俺はもう十代の少年じゃないんだよ。俺は責任というものを感じるんだ。なあキズキc俺はもうお前と一緒にいた頃の俺じゃないんだよ。俺はもう二十歳になったんだよ。そして俺は生きつづけるための代償をきちっと払わなきゃならないんだよ。

    「ねえcどうしたのよcワタナベ君」と緑は言った。「ずいぶんやせちゃったじゃないcあなた」

    「そうかな」と僕は言った。

    「やりすぎたんじゃないcその人妻の愛人と」

    僕は笑って首を振った。「去年の十月の始めから女と寝たことなんて一度もないよ」

    緑はかすれた口笛を吹いた。「もう半年もあれやってないの本当」

    「そうだよ」

    「じゃあcどうしてそんなにやせちゃったの」

    「大人になったからだよ」と僕は言った。

    緑は僕の両肩を持ってcじっと僕の目をのぞきこんだ。そしてしばらく顔をしかめてcやがてにっこり笑った。「本当だ。たしかに何か少し変ってるみたいc前に比べて」

    「大人になったからだよ」

    「あなたって最高ね。そういう考え方できるのって」と彼女は感心したように言った。「ごはん食べに行こう。おなか減っちゃったわ」

    我々は文学部の裏手にある小さなレストランに行って食事をすることにした。僕はその日のランチの定食を注文しc彼女もそれでいいと言った。

    「ねえcワタナベ君c怒ってる」と緑が訊いた。

    「何に対して」

    「つまり私が仕返しにずっと返事を書かなかったことに対して。そういうのっていけないことだと思うあなたの方はきちんと謝ってきたのに」

    「僕の方が悪かったんだから仕方ないさ」と僕は言った。

    「お姉さんはそういうのっていけないっていうの。あまりにも非寛容でcあまりにも子供じみてるって」

    「でもそれでとにかくすっきりしたんだろう仕返しして」

    「うん」

    「じゃあそれでいいじゃないか」

    「あなたって本当に寛容なのね」と緑は言った。「ねえcワタナベ君c本当にもう半年もセックスしてないの」

    「してないよ」と僕は言った。

    「じゃあcこの前私を寝かしつけてくれた時なんか本当はすごくやりたかったんじゃない」

    「まあcそうだろうね」

    「でもやらなかったのね」

    「君は今c僕のいちばん大事な友だちだしc君を失いたくないからね」と僕は言った。

    「私cあのときあなたが迫ってきてもたぶん拒否できなかったわよ。あのときすごく参ってたから」

    「でも僕のは固くて大きいよ」

    彼女はにっこり笑ってc僕の手首にそっと手を触れた。「私c少し前からあなたのこと信じようって決めたの。百パーセント。だからあのときだって私c安心しきってぐっすり眠っちゃったの。あなたとなら大丈夫だc安心していいって。ぐっすり眠ってたでしょう私」

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