正文 第24节
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「一時ヒッピーが住んでたこともあるんだけどc冬に音を上げて出て行ったわよ」
集落を抜けてしばらく先に進むと垣根にまわりを囲まれた放牧場のようなものがありc遠くの方に馬が何頭か草を食べているのが見えた。垣根に沿って歩いていくとc大きな犬が尻尾をばたばたと振りながら走ってきてcレイコさんにのしかかるようにして顔の匂いをかぎcそのれから直子にとびかかってじゃれついた。僕が口笛を吹くとやってきてc長い舌でべろべろと僕の手を舐めた。
「牧場の犬なのよ」と直子が犬の頭を撫でながら言った。「もう二十歳近くになっているじゃないかしらc歯が弱ってるから固いものは殆んど食べれないの。いつもお店の前で寝てて人の足音が聞こえるととんできて甘えるの」
レイコさんがナップザックからチーズの切れはしをとりだすとc犬は匂いを嗅ぎつけてそちらにとんでいきc嬉しそうにチーズにかぶりついた。
「この子と会えるのももう少しなのよ」とレイコさんは犬の頭を叩きながら言った。「十月半ばになると馬と牛をトラックにのせて下の方の牧舎につれていっちゃうのよ。夏場だけここで放牧してc草を食べさせてc観光客相手に小さなコーヒーハウスのようなものを開けてるの。観光客ったってcハイカーが一日二十人くるかこないかってくらいのものだけどね。あなた何か飲みたくないcどう」
「いいですね」と僕は言った。
犬が先に立って我々をそのコーヒーハウスまで案内した。正面にポーチのある白いペンキ塗りの小さな建物でcコーヒーカップのかたちをした色褪せた看板が軒から下がっていた。犬は先に立ってポーチに上りcごろんと寝転んで目を細めた。僕らがポーチのテーブルに座ると中からトレーナーシャツとホワイトジーンズという格好の髪をポニーテールにした女の子が出てきてcレイコさんと直子に親しい気にあいさつした。
「この人直子のお友だち」とレイコさんが僕に紹介した。
「こんにちは」とその女の子は言った。
「こんにちは」と僕も言った。
三人の女性がひとしきり世間話をしているあいだc僕はテーブルの下の犬の首を撫でていた。犬の首はたしかに年老いて固く筋張っていた。その固いところをぼりぼりと掻いてやるとc犬は気持良さそうに目をつぶってはあはあと息をした。
「名前はなんていうの」と僕は店の女の子に訪ねた。
「ぺぺ」と彼女は言った。
「ぺぺ」と僕は呼んでみたがc犬はびくりとも反応しなかった。
「耳遠いからcもっと大きな声で呼ばんと聞こえへんよ」と女の子は京都弁で言った。
「ペペッ」と僕は大きな声で呼ぶとc犬は目を開けてすくっと身を起こしcワンッと吠えた。
「よしよしcもうええからゆっくり寝て長生きしなさい」と女の子が言うとcぺぺはまた僕の足もとにごろんと寝転んだ。
直子とレイコさんはアイスミルクを注文しc僕はビールを注文した。レイコさんは女の子にfつけてよと言ってc女の子はアンプのスイッチを入れてf送をつけた。プラットスウェットアンドティアーズがスピニングホイールを唄っているのが聴こえた。
「私c実を言うとf聴きたくてここに来てんのよ」とレイコさんは満足そうに言った。「何しろうちはラジオもないしcたまにここに来ないと今世間でどんな音楽かかってるのかわかんなくなっちゃうのよ」
「ずっとここに泊ってるの」と僕は女の子に聴いてみた。
「まさか」と女の子は笑って答えた。「こんなところに夜いたら淋しくて死んでしまうわよ。夕方に牧場の人にあれで市内まで送ってもらうの。それでまた朝に出てくるの」彼女はそう言って少し離れたところにある牧場のオフィスの前に停まった四輪駆動車を指さした。
「もうそろそろここも暇なんじゃないの」とレイコさんが訊ねた。
「まあぼちぼちおしまいやわねえ」と女の子は言った。レイコさんは煙草をさしだしc彼女たちは二人で煙草を吸った。
「あなたいなくなると淋しいわよ」とレイコさんは言った。
「来年の五月にまた来るわよ」と女の子は笑って言った。
クリームのホワイトルームがかかりcコマーシャルがあってcそれからサイモンアンドカーファンクルのスカボロフェアがかかった。曲が終るとレイコさんは私この歌すきよと言った。
「この映画観ましたよ」と僕は言った。
「誰が出てるの」
「ダスティンホフマン」
「その人知らないわねえ」とレイコさんは哀しそうに首を振った。「世界はどんどん変っていくのよc私の知らないうちに」
レイコさんは女の子にギターを貸してくれないかと言った。いいわよと女の子は言ってラジオのスイッチを切りc奥から古いギターを持ってきた。犬が顔を上げてギターの匂いをくんくんと嗅いだ。「食べものじゃないのよcこれ」とレイコさんが犬に言い聞かせるように言った。草の匂いのする風がポーチを吹き抜けていった。山の稜線がくっきりと我々の眼前に浮かび上がっていた。
「まるでサウンドオブミュージックのシーンみたいですね」と僕は調弦をしているレイコさんに言った。
「何よcそれ」彼女は言った。
彼女はスカボロフェアの出だしのコードを弾いた。楽譜なしではじめて弾くらしく最初のうちは正確なコードを見つけるのにとまどっていたがc何度か試行錯誤をくりかえしているうちに彼女はある種の流れのようなものを捉えc全曲をとおして弾けるようになった。そして三度目にはところどころ装飾音を入れてすんなりと弾けるようになった。「勘がいいのよ」とレイコさんは僕に向ってウインクしてc指で自分の頭を指した。「三度聴くとc楽譜がなくてもだいたいの曲は弾けるの」
彼女はメロディーを小さくハミングしながらスカボロフェアを最後まできちんと弾いた。僕らは三人で拍手をしcレイコさんは丁寧に頭を下げた。
「昔モーツァルトのコンチェルト弾いたときはもっと拍手が大きかったわね」と彼女は言った。
店の女の子がcもしビートルズのヒアカムズザサンを弾いてくれたらアイスミルクのぶん店のおごりにするわよと言った。レイコさんは親指をあげて一kのサインを出した。それから歌詞を唄いながらヒアカムズザサンを弾いた。あまり声量がなくcおそらくは煙草の吸いすぎのせいでいくぶんかすれていたけれどc存在感のある素敵な声だった。ビールを飲みながら山を眺めc彼女の唄を聴いているとc本当にそこから太陽がもう一度顔をのぞかせそうな気がしてきた。それはとてもあたたかいやさしい気持だった。
ヒアカムズザサンを唄い終るとcレイコさんはギターを女の子に返しcまたf送をつけてくれと言った。そして僕と直子に二人でこのあたりを一時間ばかり歩いていらっしゃいよと言った。
「私cここでラジオ聴いて彼女とおしゃべりしてるからc三時までに戻ってくればcそれでいいわよ」
「そんなに長く二人きりになっちゃってかまわないんですか」と僕は訊いた。
「本当はいけないんだけどcまあいいじゃない。私だってつきそいばあさんじゃないんだから少しはのんびりしたいわよ人で。それにせっかく遠くから来たんだからつもる話もあるんでしょう」とレイコさんは新しい煙草に火をつけながら言った。
「行きましょうよ」と直子が言って立ち上がった。
僕も立ち上がって直子のあとを追った。犬が目をさましてしばらく我々のあとをついてきたがcそのうちにあきらめてもとの場所に戻っていた。我々は牧場の柵に沿って平坦な道をのんびりと歩いた。ときどき直子は僕の手を握ったりc腕をくんだりした。
「こんな風にしてるとなんだか昔みたいじゃない」と直子は言った。
「あれは昔じゃないよ。今年の春だぜ」と僕は笑って言った。「今年の春までそうしてたんだ。あれが昔だったら十年前は古代史になっちゃうよ」
「古代史みたいなものよ」と直子は言った。「でも昨日ごめんなさい。なんだか神経がたかぶっちゃって。せっかくあなたが来てくれたのにc悪かったわ」
「かまわないよ。たぶんいろんな感情をもっともっと外に出し方がいいんだと思うねc君も僕も。だからもし誰かにそういう感情をぶっつけたいんならc僕にぶっつければいい。そうすればもっとお互いを理解できる」
「私を理解してcそれでそうなるの」
「ねえc君はわかってない」と僕は言った。「どうなるかといった問題ではないんだよcこれは。世の中には時刻表を調べるのが好きで一日中時刻表読んでいる人がいる。あるいはマッチ棒をつなぎあわせて長さ一メートルの船を作ろうとする人だっている。だから世の中に君のことを理解しようとする人間が一人くらいいたっておかしくないだろう」
「趣味のようなものかしら」と直子はおかしそうに言った。
「趣味と言えば言えなくもないね。一般的に頭のまともな人はそういうのを好意とか愛情とかいう名前で呼ぶけれどc君は趣味って呼びたいんならそう呼べばいい」
「ねえcワタナベ君」と直子が言った。「あなたキズキ君のことも好きだったんでしょう」
「もちろん」と僕は答えた。
「レイコさんはどう」
「あの人も大好きだよ。いい人だね」
「ねえcどうしてあなたそういう人たちばかり好きになるの」と直子は言った。「私たちみんなどこかでねじまがってcよじれてcうまく泳げなくてcどんどん沈んでいく人間なのよ。私もキズキ君もレイコさんも。みんなそうよ。どうしてもっとまともな人を好きにならないの」
「それは僕にはそう思えないからだよ」僕は少し考えてからそう答えた。「君やキズキやレイコさんがねじまがってるとはどうしても思えないんだ。ねじまがっていると僕が感じる連中はみんな元気に外で歩きまわってるよ」
「でも私たちねじまがってるのよ。私にはわかるの」と直子は言った。
我々はしばらく無言で歩いた。道は牧場の柵を離れc小さな湖のようにまわりを林に囲まれた丸いかたちの草原に出た。
「ときどき夜中に目が覚めてcたまらなく怖くなるの」と直子は僕の腕に体を寄せながら言った。「こんな風にねじ曲ったまま二度ともとに戻れないとcこのままここで年をとって朽ち果てていくんじゃないかって。そう思うとc体の芯まで凍りついたようになっちゃうの。ひどいのよ。辛くてc冷たくて」
僕は直子の肩に手をまわして抱き寄せた。
「まるでキズキ君が暗いところから手をのばして私を求めてるような気がするの。おいナオコc俺たち離れられないんだぞって。そう言われると私c本当にどうしようもなくなっちゃうの」
「そういうときはどうするの」
「ねえcワタナベ君c変に思わないでね」
「思わないよ」と僕は言った。
「レイコさんに抱いてもらうの」と直子は言った。「レイコさんを起こしてc彼女のベッドにもぐりこんでc抱きしめてもらうの。そして泣くのよ。彼女は私の体を撫でてくれるの。体の芯があたたまるまで。こういうのって変」
「変じゃないよ。レイコさんのかわりに僕が抱きしめてあげたいと思うだけど」
「今c抱いてcここで」と直子は言った。
我々は草原の乾いた草の上に腰を下ろして抱き合った。腰を下ろすと我々の体は草の中にすっぽりと隠れc空と雲の他には何も見えなくなってしまった。僕は直子の体をゆっくりと草の上に倒しc抱きしめた。直子の体はやわらかくあたたかでcその手は僕の体を求めていた。僕と直子は心のこもった口づけをした。
「ねえcワタナベ君」と僕の耳もとで直子が言った。
「うん」
「私と寝たい」
「もちろん」と僕は言った。
「でも待てる」
「もちろん待てる」
「そうする前に私cもう少し自分のことをきちんとしたいの。きちんとしてcあなたの趣味にふさわしい人間になりたいのよ。それまで待ってくれるの」
「もちろん待つよ」
「今固くなってる」
「足の裏のこと」
「馬鹿ねえ」とくすくす笑いながら直子は言った。
「勃起してるかということならcしてるよcもちろん」
「ねえcそのもちろんっていうのやめてくれる」
「いいよcやめる」と僕は言った。
「そういうのってつらい」
「何が」
「固くなってることが」
「つらい」と僕は訊きかえした。
「つまりcその苦しいかっていうこと」
「考えようによってはね」
「出してあげようか」
「手で」
「そう」と直子は言った。「正直言うとさっきからそれすごくゴツゴツしてて痛いのよ」
僕は少し体をずらせた。「これでいい」
「ありがとう」
「ねえc直子」と僕は言った。
「なあに」
「やってほしい」
「いいわよ」と直子はにっこりと微笑んで言った。そして僕のズボンのジッパーを外しc固くなったペニスを手に握った。
「あたたかい」と直子は言った。
直子が手を動かそうとするのを僕は止めて。彼女のブラウスのボタンを外しc背中に手をまわしてブラジャーのホックを外した。そしてやわらかいピンク色のにそっと唇をつけた。直子は目を閉じcそれからゆっくりと指を動かしはじめた。
「なかなか上手いじゃない」と僕は言った。
「いい子だから黙っていてよ」と直子が言った。
射精が終ると僕はやさしく彼女を抱きcもう一度口づけした。そして直子はブラジャーとブラウスをもとどおりにしc僕はズボンのジッパーをあげた。
「これで少し楽に歩けるようになった」と直子が訊いた。
「おかげさまで」と僕は答えた。
「じゃあよろしかったらもう少し歩きません」
「いいですよ」と僕は言った。
僕らは草原を抜けc雑木林を抜けcまた草原を抜けた。そして歩きながら直子は死んだ姉の話をした。このことは今まで殆んど誰にも話したことはないのだけれど。あなたには話しておいた方がいいと思うから話すのだと彼女は言った。
「私たち年が六つ離れていたしc性格なんかもけっこう違ったんだけれどcそれでもとても仲が良かったの」と直子は言った。「喧嘩ひとつしなかったわ。本当よ。まあ喧嘩にならないくらいレベルに差があったということもあるんだけどね」
お姉さんは何をやらせても一番になってしまうタイプだったのだcと直子は
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集落を抜けてしばらく先に進むと垣根にまわりを囲まれた放牧場のようなものがありc遠くの方に馬が何頭か草を食べているのが見えた。垣根に沿って歩いていくとc大きな犬が尻尾をばたばたと振りながら走ってきてcレイコさんにのしかかるようにして顔の匂いをかぎcそのれから直子にとびかかってじゃれついた。僕が口笛を吹くとやってきてc長い舌でべろべろと僕の手を舐めた。
「牧場の犬なのよ」と直子が犬の頭を撫でながら言った。「もう二十歳近くになっているじゃないかしらc歯が弱ってるから固いものは殆んど食べれないの。いつもお店の前で寝てて人の足音が聞こえるととんできて甘えるの」
レイコさんがナップザックからチーズの切れはしをとりだすとc犬は匂いを嗅ぎつけてそちらにとんでいきc嬉しそうにチーズにかぶりついた。
「この子と会えるのももう少しなのよ」とレイコさんは犬の頭を叩きながら言った。「十月半ばになると馬と牛をトラックにのせて下の方の牧舎につれていっちゃうのよ。夏場だけここで放牧してc草を食べさせてc観光客相手に小さなコーヒーハウスのようなものを開けてるの。観光客ったってcハイカーが一日二十人くるかこないかってくらいのものだけどね。あなた何か飲みたくないcどう」
「いいですね」と僕は言った。
犬が先に立って我々をそのコーヒーハウスまで案内した。正面にポーチのある白いペンキ塗りの小さな建物でcコーヒーカップのかたちをした色褪せた看板が軒から下がっていた。犬は先に立ってポーチに上りcごろんと寝転んで目を細めた。僕らがポーチのテーブルに座ると中からトレーナーシャツとホワイトジーンズという格好の髪をポニーテールにした女の子が出てきてcレイコさんと直子に親しい気にあいさつした。
「この人直子のお友だち」とレイコさんが僕に紹介した。
「こんにちは」とその女の子は言った。
「こんにちは」と僕も言った。
三人の女性がひとしきり世間話をしているあいだc僕はテーブルの下の犬の首を撫でていた。犬の首はたしかに年老いて固く筋張っていた。その固いところをぼりぼりと掻いてやるとc犬は気持良さそうに目をつぶってはあはあと息をした。
「名前はなんていうの」と僕は店の女の子に訪ねた。
「ぺぺ」と彼女は言った。
「ぺぺ」と僕は呼んでみたがc犬はびくりとも反応しなかった。
「耳遠いからcもっと大きな声で呼ばんと聞こえへんよ」と女の子は京都弁で言った。
「ペペッ」と僕は大きな声で呼ぶとc犬は目を開けてすくっと身を起こしcワンッと吠えた。
「よしよしcもうええからゆっくり寝て長生きしなさい」と女の子が言うとcぺぺはまた僕の足もとにごろんと寝転んだ。
直子とレイコさんはアイスミルクを注文しc僕はビールを注文した。レイコさんは女の子にfつけてよと言ってc女の子はアンプのスイッチを入れてf送をつけた。プラットスウェットアンドティアーズがスピニングホイールを唄っているのが聴こえた。
「私c実を言うとf聴きたくてここに来てんのよ」とレイコさんは満足そうに言った。「何しろうちはラジオもないしcたまにここに来ないと今世間でどんな音楽かかってるのかわかんなくなっちゃうのよ」
「ずっとここに泊ってるの」と僕は女の子に聴いてみた。
「まさか」と女の子は笑って答えた。「こんなところに夜いたら淋しくて死んでしまうわよ。夕方に牧場の人にあれで市内まで送ってもらうの。それでまた朝に出てくるの」彼女はそう言って少し離れたところにある牧場のオフィスの前に停まった四輪駆動車を指さした。
「もうそろそろここも暇なんじゃないの」とレイコさんが訊ねた。
「まあぼちぼちおしまいやわねえ」と女の子は言った。レイコさんは煙草をさしだしc彼女たちは二人で煙草を吸った。
「あなたいなくなると淋しいわよ」とレイコさんは言った。
「来年の五月にまた来るわよ」と女の子は笑って言った。
クリームのホワイトルームがかかりcコマーシャルがあってcそれからサイモンアンドカーファンクルのスカボロフェアがかかった。曲が終るとレイコさんは私この歌すきよと言った。
「この映画観ましたよ」と僕は言った。
「誰が出てるの」
「ダスティンホフマン」
「その人知らないわねえ」とレイコさんは哀しそうに首を振った。「世界はどんどん変っていくのよc私の知らないうちに」
レイコさんは女の子にギターを貸してくれないかと言った。いいわよと女の子は言ってラジオのスイッチを切りc奥から古いギターを持ってきた。犬が顔を上げてギターの匂いをくんくんと嗅いだ。「食べものじゃないのよcこれ」とレイコさんが犬に言い聞かせるように言った。草の匂いのする風がポーチを吹き抜けていった。山の稜線がくっきりと我々の眼前に浮かび上がっていた。
「まるでサウンドオブミュージックのシーンみたいですね」と僕は調弦をしているレイコさんに言った。
「何よcそれ」彼女は言った。
彼女はスカボロフェアの出だしのコードを弾いた。楽譜なしではじめて弾くらしく最初のうちは正確なコードを見つけるのにとまどっていたがc何度か試行錯誤をくりかえしているうちに彼女はある種の流れのようなものを捉えc全曲をとおして弾けるようになった。そして三度目にはところどころ装飾音を入れてすんなりと弾けるようになった。「勘がいいのよ」とレイコさんは僕に向ってウインクしてc指で自分の頭を指した。「三度聴くとc楽譜がなくてもだいたいの曲は弾けるの」
彼女はメロディーを小さくハミングしながらスカボロフェアを最後まできちんと弾いた。僕らは三人で拍手をしcレイコさんは丁寧に頭を下げた。
「昔モーツァルトのコンチェルト弾いたときはもっと拍手が大きかったわね」と彼女は言った。
店の女の子がcもしビートルズのヒアカムズザサンを弾いてくれたらアイスミルクのぶん店のおごりにするわよと言った。レイコさんは親指をあげて一kのサインを出した。それから歌詞を唄いながらヒアカムズザサンを弾いた。あまり声量がなくcおそらくは煙草の吸いすぎのせいでいくぶんかすれていたけれどc存在感のある素敵な声だった。ビールを飲みながら山を眺めc彼女の唄を聴いているとc本当にそこから太陽がもう一度顔をのぞかせそうな気がしてきた。それはとてもあたたかいやさしい気持だった。
ヒアカムズザサンを唄い終るとcレイコさんはギターを女の子に返しcまたf送をつけてくれと言った。そして僕と直子に二人でこのあたりを一時間ばかり歩いていらっしゃいよと言った。
「私cここでラジオ聴いて彼女とおしゃべりしてるからc三時までに戻ってくればcそれでいいわよ」
「そんなに長く二人きりになっちゃってかまわないんですか」と僕は訊いた。
「本当はいけないんだけどcまあいいじゃない。私だってつきそいばあさんじゃないんだから少しはのんびりしたいわよ人で。それにせっかく遠くから来たんだからつもる話もあるんでしょう」とレイコさんは新しい煙草に火をつけながら言った。
「行きましょうよ」と直子が言って立ち上がった。
僕も立ち上がって直子のあとを追った。犬が目をさましてしばらく我々のあとをついてきたがcそのうちにあきらめてもとの場所に戻っていた。我々は牧場の柵に沿って平坦な道をのんびりと歩いた。ときどき直子は僕の手を握ったりc腕をくんだりした。
「こんな風にしてるとなんだか昔みたいじゃない」と直子は言った。
「あれは昔じゃないよ。今年の春だぜ」と僕は笑って言った。「今年の春までそうしてたんだ。あれが昔だったら十年前は古代史になっちゃうよ」
「古代史みたいなものよ」と直子は言った。「でも昨日ごめんなさい。なんだか神経がたかぶっちゃって。せっかくあなたが来てくれたのにc悪かったわ」
「かまわないよ。たぶんいろんな感情をもっともっと外に出し方がいいんだと思うねc君も僕も。だからもし誰かにそういう感情をぶっつけたいんならc僕にぶっつければいい。そうすればもっとお互いを理解できる」
「私を理解してcそれでそうなるの」
「ねえc君はわかってない」と僕は言った。「どうなるかといった問題ではないんだよcこれは。世の中には時刻表を調べるのが好きで一日中時刻表読んでいる人がいる。あるいはマッチ棒をつなぎあわせて長さ一メートルの船を作ろうとする人だっている。だから世の中に君のことを理解しようとする人間が一人くらいいたっておかしくないだろう」
「趣味のようなものかしら」と直子はおかしそうに言った。
「趣味と言えば言えなくもないね。一般的に頭のまともな人はそういうのを好意とか愛情とかいう名前で呼ぶけれどc君は趣味って呼びたいんならそう呼べばいい」
「ねえcワタナベ君」と直子が言った。「あなたキズキ君のことも好きだったんでしょう」
「もちろん」と僕は答えた。
「レイコさんはどう」
「あの人も大好きだよ。いい人だね」
「ねえcどうしてあなたそういう人たちばかり好きになるの」と直子は言った。「私たちみんなどこかでねじまがってcよじれてcうまく泳げなくてcどんどん沈んでいく人間なのよ。私もキズキ君もレイコさんも。みんなそうよ。どうしてもっとまともな人を好きにならないの」
「それは僕にはそう思えないからだよ」僕は少し考えてからそう答えた。「君やキズキやレイコさんがねじまがってるとはどうしても思えないんだ。ねじまがっていると僕が感じる連中はみんな元気に外で歩きまわってるよ」
「でも私たちねじまがってるのよ。私にはわかるの」と直子は言った。
我々はしばらく無言で歩いた。道は牧場の柵を離れc小さな湖のようにまわりを林に囲まれた丸いかたちの草原に出た。
「ときどき夜中に目が覚めてcたまらなく怖くなるの」と直子は僕の腕に体を寄せながら言った。「こんな風にねじ曲ったまま二度ともとに戻れないとcこのままここで年をとって朽ち果てていくんじゃないかって。そう思うとc体の芯まで凍りついたようになっちゃうの。ひどいのよ。辛くてc冷たくて」
僕は直子の肩に手をまわして抱き寄せた。
「まるでキズキ君が暗いところから手をのばして私を求めてるような気がするの。おいナオコc俺たち離れられないんだぞって。そう言われると私c本当にどうしようもなくなっちゃうの」
「そういうときはどうするの」
「ねえcワタナベ君c変に思わないでね」
「思わないよ」と僕は言った。
「レイコさんに抱いてもらうの」と直子は言った。「レイコさんを起こしてc彼女のベッドにもぐりこんでc抱きしめてもらうの。そして泣くのよ。彼女は私の体を撫でてくれるの。体の芯があたたまるまで。こういうのって変」
「変じゃないよ。レイコさんのかわりに僕が抱きしめてあげたいと思うだけど」
「今c抱いてcここで」と直子は言った。
我々は草原の乾いた草の上に腰を下ろして抱き合った。腰を下ろすと我々の体は草の中にすっぽりと隠れc空と雲の他には何も見えなくなってしまった。僕は直子の体をゆっくりと草の上に倒しc抱きしめた。直子の体はやわらかくあたたかでcその手は僕の体を求めていた。僕と直子は心のこもった口づけをした。
「ねえcワタナベ君」と僕の耳もとで直子が言った。
「うん」
「私と寝たい」
「もちろん」と僕は言った。
「でも待てる」
「もちろん待てる」
「そうする前に私cもう少し自分のことをきちんとしたいの。きちんとしてcあなたの趣味にふさわしい人間になりたいのよ。それまで待ってくれるの」
「もちろん待つよ」
「今固くなってる」
「足の裏のこと」
「馬鹿ねえ」とくすくす笑いながら直子は言った。
「勃起してるかということならcしてるよcもちろん」
「ねえcそのもちろんっていうのやめてくれる」
「いいよcやめる」と僕は言った。
「そういうのってつらい」
「何が」
「固くなってることが」
「つらい」と僕は訊きかえした。
「つまりcその苦しいかっていうこと」
「考えようによってはね」
「出してあげようか」
「手で」
「そう」と直子は言った。「正直言うとさっきからそれすごくゴツゴツしてて痛いのよ」
僕は少し体をずらせた。「これでいい」
「ありがとう」
「ねえc直子」と僕は言った。
「なあに」
「やってほしい」
「いいわよ」と直子はにっこりと微笑んで言った。そして僕のズボンのジッパーを外しc固くなったペニスを手に握った。
「あたたかい」と直子は言った。
直子が手を動かそうとするのを僕は止めて。彼女のブラウスのボタンを外しc背中に手をまわしてブラジャーのホックを外した。そしてやわらかいピンク色のにそっと唇をつけた。直子は目を閉じcそれからゆっくりと指を動かしはじめた。
「なかなか上手いじゃない」と僕は言った。
「いい子だから黙っていてよ」と直子が言った。
射精が終ると僕はやさしく彼女を抱きcもう一度口づけした。そして直子はブラジャーとブラウスをもとどおりにしc僕はズボンのジッパーをあげた。
「これで少し楽に歩けるようになった」と直子が訊いた。
「おかげさまで」と僕は答えた。
「じゃあよろしかったらもう少し歩きません」
「いいですよ」と僕は言った。
僕らは草原を抜けc雑木林を抜けcまた草原を抜けた。そして歩きながら直子は死んだ姉の話をした。このことは今まで殆んど誰にも話したことはないのだけれど。あなたには話しておいた方がいいと思うから話すのだと彼女は言った。
「私たち年が六つ離れていたしc性格なんかもけっこう違ったんだけれどcそれでもとても仲が良かったの」と直子は言った。「喧嘩ひとつしなかったわ。本当よ。まあ喧嘩にならないくらいレベルに差があったということもあるんだけどね」
お姉さんは何をやらせても一番になってしまうタイプだったのだcと直子は
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